atoiuma’s blog

人生あっという間。マイペースにおもしろく。

生き苦しいなら、世間を増やせ

鴻上尚史さんの新刊「空気」を読んでも従わない、を読んだ。

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欧米の神様は、一神教である。一方私たち日本人の神様は、「世間」である。

 

世間とは、「あなたと、現在または将来、関係のある人たち」のこと。具体的には、クラスメイト、塾の友達、地域のサークルや近隣の人たちのこと。

 

この世間にはいくつかルールがあって、それによって私たちは息苦しさを感じる。例えば年上が偉いだとか、仲間外れを作ることで団結するだとか。同調圧力も強い世間が生み出す。「世間体を気にする」という言葉もあるように、私たちはその枠でうまく生存できるように人の目を気にしたり、納得のいかないことを飲み込んだり、尊敬に値しない年上を形だけでも敬ったりしている。

 

世間の反対に、「社会」がある。社会とは、「あなたと、現在または将来、なんの関係もない人たち」のこと。具体的には、道ですれ違った人、電車で隣に座っている人、コンビニバイトの人、隣町の学校の生徒など。

 

で、ちょっと考えればわかるのだけど、私たち日本人は世間で生きるのに慣れており、社会の人たちとコミュニケーションするのが苦手。だから3.11の震災後もしっかり列に並んでルールを守るし、家やお店を襲ったりしない。一方で、駅の階段でベビーカーを運んでいる女性を助けることができない。世間では優しく振る舞えるが、社会相手、つまり見ず知らずの人に対してはコミュニケーションするのが恥ずかしかったり怖かったりしてしまう。

 

面白いのが、なんと欧米には「世間」がないらしい。あまり欧米に行ったことがないのでわからないけれど、エレベーターに乗ったら簡単な世間話が始まったりするそうだ。スーパーに行っても「Hi!」と声をかけられると。さっきのベビーカーの話でいうなら、声をかけて助けることが日本人に比べて容易にできると。

 

驚いたのが、恋人との出会いの場所。日本では大体、学校や塾、バイト先や職場など知っている人がいる場所、つまり「世間」で出会うことが多い。しかし欧米では、公園、列車、銀行、レストラン、バーなど知らない人たちが集う場所、つまり「社会」で始まるらしい。すごいなそれは!

 

そういえば、フランスのパリに留学していた岡本太郎は、日本に帰国した際、電車で気になる女性がいた時に視線を送ってアピールしようとしたら、目を背ける人ばかりで残念な気持ちになったと言っていた。面白すぎる。日本の価値観だと電車で関係を始めようなんて考えられない!

 

つまり、欧米人は、知らない人とコミュニケーションすることに抵抗がないのだ。これは日本と大きく違う点だ。

 

なんでそんなに違うのか。それが最初に書いた「一神教=神、世間=神」の違いによるものということなんだけど、加えて、狩猟民族と農耕民族の違いも大きい。

 

日本人は村で一体となって農業をすることで生きてきた。協力しないと死ぬ環境。その中で協調性のない人間は村八分となり弾かれた。生きるためには、世間でうまくやっていかないといけない。そんな時代が長〜く続いちゃっていた(明治時代にようやく「社会」がやってきた!)ので、それが今の私たちにも受け継がれていると。なるほど。

 

という感じで、欧米や海外の文化と比較しながら日本の息苦しさに迫っている本。日本人にとっての当たり前が、相対的に見ることで解体されていくのが気持ちいい。

 

それにしても鴻上さんの文章は丁寧で読みやすい。演劇という世界でずっと生きているからなのか、絶えず人間を観察してきたからなのか、的確に人間という生き物を捉えていて言葉に説得力がある。そして、愛情も感じる。人が相談したい相手というのは、そういう人だ。AERAの人生相談が人気のようだけど、そりゃそうだなと納得。

 

ちなみに、ではどうしたらこの息苦しさから逃れらるかなんだけど、世間を増やすことが挙げられていた。世間が一つだとそこにしか居場所がないために従わざるを得ないシチュエーションが増えるし、あまり深く関わりすぎると他者を排他することで団結し始めるので危険。世間を増やすことで比重を下げろと。学生にとっての塾、社会人にとってのサークルなんかがそれに当たる。

 

で、それは無意識に私がやってきたことだなと。私自身は集団に属するのが苦手で、コミュニティというよりも一対一の関係性を築くようにしている。 バイトは基本ダブルワークだし、旅先でも現地の人となるべく交流するようにして、縁があれば連絡先も交換する(英語が話せて良かった!)。そうやって多様な世間を作ると視野も広がるし、愛想笑いでコミュニケーションする必要が減る。世間は増やしたほうがいい。

 

ちなみに、世間との戦い方も記載されているので、興味ある方は一読を!敵を知れば対策も立てられるってもんだぜ!

まとめ

岩波ジュニア新書から出ているということで、思春期の学生をメインターゲットにしている。これを読んで救われる学生は多いはず。鴻上さんのような大人がちゃんといるんだとわかることは、思春期にすごくプラスなことだと思う。両親や学校の環境に恵まれなかった人は特に。

 

もちろん大人にも面白いですよー。 日本社会に生き苦しさを感じている人はぜひ。

 

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面白い箇所を折ってメモしていたら、こんなになってしまった。。。

 

そうそう、これも良い本です。引きこもっていた時に読んで感銘を受けて、そこから鴻上さんのワークショップに参加した時代もあったな。。。

孤独と不安のレッスン (だいわ文庫)

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